撮影が終わったあと
涼真くんが控え室の前で待っててくれた
「あ!涼真くん…お疲れさま」
「おう、お疲れさんー」
自然に声が返ってくるけど
なんだかちょっとだけ照れくさい
「んで…どうだった?」
「…いやほんと…すごかった」
素直にそう言った
「そ?少しは…勉強になった?」
「うん!距離の詰め方とか視線とか、特に参考になった」
涼真くんの芝居は
やっぱり全然違ってた
空気を作るのがうまくて
自然に引き込まれてく感覚
「でとやっぱりさ、結局経験なんだよね?」
気になって思わず聞いてた…
涼真くんは一瞬驚いた顔をしてから
少し笑った
「いや、もちろんそれもあるけどさ」
「でも奈々は元々感覚はいい方だと思うけど?」
「…そんなことないし」
「ううん、あるって」
軽く言われると
どう返せばいいかわからなくなる
「でも……やっぱ難しいよ」
「まあなー。恋愛は特にな」
涼真くんの声はいつも通り落ち着いてて
でもちょっとだけ優しかった
「俺だって最初全然できなかったし」
「え??ほんと?」
「ああ。当たり前。誰でも最初はそうだよ」
ゆるい口調だけど
ちゃんと私の目を見てくる
「奈々の芝居はさ――感情に嘘がないよな」
「……嘘がない?」
「なんて言ったらいいかなぁ。
まぁでも絶対伸びしろがあるってことよ」
自然にそう言われて
胸の奥が少しモゾモゾする
「って…偉そうなこと言ってるけどさ、俺もまだまだだけど」
涼真くんがふっと笑う
その空気に
ちょっとだけ緊張がほぐれた気がした
「涼真くん……ありがと」
「はは!礼なんていらねえよ!じゃあまた現場でな」
「うん」
軽く手を振って歩いていく涼真くんの背中を
私はなんとなく見送ってた
まだ掴めてないけど
涼真君と話していたら
少しだけ前に進めた気がしてた…



