撮影が終わっても
___奈々はどこか上の空だった
周りのスタッフがざわついてるのも
SNSで話題になってるのも
全部知ってたけど、見ないふりをしていた
楽屋を出て、廊下を歩いてると
__「奈々」
後ろから聞き慣れた声が追いかけてきた
__立ち止まる
だけど、振り返らない
「……ちょっとだけ、時間くれないか」
その声は低くて真剣で
いつもより少しだけ、近かった
私は静かに振り返る
涼真の顔を見ないようにしながら、うなずいた
場所を移したのは、裏手の人気のない非常階段
誰にも聞かれないように、涼真がドアを閉める
「例の写真、見たよね」
「……うん」
奈々の声は、思ったよりも出た
「ごめん。あれ、誤解されるよな」
涼真は一歩前に出て、でも奈々との距離は保ったまま
真正面から目を合わせる
「誤解なんかじゃないよ。だってあの距離……
あの笑顔……私も信じられなくなるくらいだった」
涼真は一瞬だけ目を伏せてから
深く息を吐いた
「……笑ってたのは、美月が現場で噛みまくってさ。
何回も撮り直しになって、落ち込んでたんだよ
で、マネージャーに怒られた後に俺のとこ来て…
“もう終わったかも”って半泣きでさ」
「それで?」
「落ち込んだままじゃ撮影にも支障が出るから
“俺だってさっき3回噛んだわ”って適当に言ったら
ふって笑った。
そのときちょうどスタッフが通って…
“元気出た?“って肩に手置いた
ただそれだけだ」
奈々は小さく眉を寄せる
「……それだけ、だったの?」
「それだけ。けど……わかってる。
誤解される行動だったって。
俺が奈々の立場でも、たぶん同じこと思う
言い訳に聞こえるよな」
___少しの間
奈々はじっと、涼真の顔を見つめていた
その瞳の中に、取り繕いも、焦りもなかった
ただまっすぐ、自分を見ている涼真がいた
「……そっか。ちゃんと話してくれて、ありがとう」
「俺こそごめん。ちゃんと信じて欲しい。」



