翌日――

 

撮影終わりに
また涼真くんの家で
練習に付き合ってもらうことになった

 


昨日の帰り際の頭ポンポンが
頭の中をぐるぐるしてるまま…


__インターホンを押す

 

「おつかれ。撮影大丈夫だった?」

 

「あ、うん!…えと…おじゃまします」

 

自然体の涼真くんは
今日もラフな部屋着姿で出迎えてくれた

 

慣れたはずのソファの距離も


今日は妙に近く感じる

 

 

「えーっと。今日はここ…か」

 

涼真くんが台本をめくりながら指差したシーンは――

 

…甘いシーンだった

 

恋人同士になって
ふたりがやっと気持ちを通わせる
キスシーンの前後

 

一気に胸の奥がバクバクしてくる…

 

「だ、だいじょうぶかな…」

 

「大丈夫。無理にはやんねぇでいいから。練習だから」

 

涼真くんは落ち着いた声で笑う

 

「……うん。わかった」

 

緊張で手汗がじんわりにじむのを感じながら
台本を開き、セリフを読見始める。
 

 

『…やだ…今日は、帰らないで?』
 

私がセリフを口にすると
すぐ隣で涼真くんが優しく返す

 

『……いいの?』

 

『うん……』

 

ふわっと
涼真くんが体を寄せてくる

 

肩が少しだけ当たるくらいの距離

 

心臓の音がうるさいくらい鳴ってた

 

『……好きだよ』

 

涼真くんの低い声が
すぐ耳元に響く

 

私のセリフは自然と声が震えた

 

『……私も…』

 

 

そして――

 

キスに入る直前の流れに差し掛かった瞬間


__私の動きが不自然に固まってしまった

 



唇はまだ合わせない位置なのに…

緊張で呼吸まで止まりそうだった

 

ふいに
すぐ隣で涼真くんの声が小さく囁く

 

「……力抜けよ。顔、固くなってんぞ?」

 

低く柔らかい声が
耳の奥に直接入り込んでくる

 

「……っ」

 

一気に体温が跳ね上がった

 

もう役の練習だってわかってるのに
ドキドキが止まらなかった

 

"……このまま、続ける?"
 

涼真くんが小声で確認してくれる

 

「う、うん…」

 

私が頷くと
涼真くんがまたセリフの続きを口にした

 

『……キス、してもいい…?』

 

「……うん』

 

唇が近づく距離まで自然に寄る



けれど、唇までは触れずに
ほとんどギリギリのところで止めたまま…

 

その距離感が逆に苦しくなるほどドキドキしてた

 

 

涼真くんは唇は避け、
そのまま軽く頬にキスを落とした


 

__ほんのわずかの感触なのに

心臓が爆発しそうだった

 

キスが終わると
涼真くんがゆるく笑う

 

「奈々……顔、真っ赤じゃん」

 

「っ……」

 

言葉にならずに俯いてしまう

 

「ばーか」

 

少しだけ低く笑いながら涼真くんが囁く

 

「こんなんで赤くなってたら…ベッドシーンどうすんだよ」

 

悪戯っぽく笑う声に
さらに顔が熱くなるのが自分でもわかった

「だ、だよね…」



呼吸まで浅くなってしまって

まともに顔を上げられなかった…