__帰り道
私はずっと考えてた…
監督の言葉が
頭の中で何度も何度も何度もリピートする
「もう少し感情の揺らぎが出せるといいかな」
…揺らぎか…どうしたらいいんだろう
恋愛を知らない私に
本物みたいな感情なんて出せるのかな
__家に帰ってからも考え続けて
気付けば私は
恋愛ドラマを何本も見返してた
キスするタイミングとか
目線の合わせ方とか
手を握る仕草とか…
台詞じゃない部分で
溢れてる感情…
「…やっぱ…難しい」
ドラマだけじゃ足りなくて
ネットでインタビュー記事を探したり
恋愛小説まで読み漁った
自分でも必死すぎるって思うけど
やっぱり諦めたくなかった
「もっと…自然にできたらいいのに…」
どれだけ勉強しても
実際に恋を知らない私は
イメージだけじゃ限界を感じてた
寝る前までスマホ片手に映像を見続けて
いつの間にか眠りについていた
──数日後
次の撮影現場へ向かった時
思わぬ再会が待っていた
「……奈々?」
その声に振り返ると
「涼真くん……!」
まさかまた会うなんて
思わず声が弾んだ
「あれ?今回は違う作品の収録?」
「うん。そなんだよね…そっちは?」
「俺は今からここのスタジオで雑誌の撮影」
ふわっと微笑むその顔は
やっぱり少し大人びて見える
久しぶりに話すのに
なんだろう…
不思議と緊張はしなかった
「雑誌かあ!涼真くん相変わらず忙しそうだね」
「それはお前もな。最近よく名前見るぞ?」
「え?そんなこと……」
内心ドキドキしてるのを隠して
必死に笑顔を作った
それでも胸の奥が
少しずつ熱くなっていくのを感じた
涼真くんはやっぱり
私とは全然違う場所にいるんだなって
__少し思ってしまった



