主演ドラマの撮影がいよいよ本格的になってきた
今日はまだ恋人役の相手と
そこまで近づくシーンじゃなくて
普通のやりとりの流れだけど…
……それでも、やっぱり緊張する
「奈々ちゃん、もう少しテンポ意識して。
相手のセリフの入りを受け止めきれてないかな」
___監督の声が飛ぶ
「……はいっ!すみません」
わかってるのに…
なんでだろう
体がちょっと固くなってしまう…
相手役の真也くんは
今注目されてる若手俳優で
柔らかい雰囲気があってすごく優しい人
でも___
逆にその優しさが
変に意識させてくるというか…なんというか
リハーサルも何度か繰り返して
また監督の声が飛んだ
「奈々ちゃん、もう一回感情の流れ確認しようか」
「あ、はい…!」
モニター越しに自分の芝居を見ると
やっぱり目線が泳いでるのがわかる
……だめだな
感情にちゃんと入り込めてない
「真也くん、ごめんなさい。私のせいで…」
撮影の合間に
私は相手役の真也くんに頭を下げた
でも
真也くんはすぐに優しく笑った
「そんなの全然だよ。俺も上手く受け返せてなかったしさ」
あー…
ほんと優しい…
「考えすぎないで。そんなに気にしなくていい。
次またやればいいから、ね」
その言葉に
少し肩の力が抜けた
「……ありがとうございます」
「うん。奈々ちゃん、すごく頑張ってるのわかるから」
ああ…
優しいなって思った
少しだけ
胸の奥がドキドキする感覚もあったけど
──でも
真也くんの言葉を聞きながら
ふと頭をよぎったのは
……もし、こんな時に
涼真くんだったら…
あの落ち着いた低い声で
「焦んなくていいだろ」
とかって言ってくれそうで
それだけで
自然と空気を作ってくれるあの余裕感…
考えたくないのに
無意識に浮かんできてた
──やば…また涼真くんのこと考えてる…
ほんと最近、こういう瞬間に
気付いたら頭に浮かんでしまう
……やっぱり私
──意識してるんだ
改めて
自分の中ではっきりそう感じた瞬間だった
___だからこそ
「……もっと練習しなきゃ」
自然にそう呟いてた
中途半端なままじゃ
役になんて入り込めない
あのシーンだって
もっと感情乗せられるようになりたい…
__ちゃんと
役の中でも恋できるように…



