飲み物を貰ってから
涼真くんと昔の話や
お仕事の話…

ほんとに、他愛も無い会話をしていたときだった

「よおし…じゃあ、そろそろ始めっか?」

 

涼真くんがソファに腰を下ろして
台本をペラペラめくってる

 

私は隣に座ったけど

…内心ちょっとドキドキしてた

 

「んだよ、そんな緊張すんなって」

 

「いや…だってさ、普通に恥ずかしいんだけど」

 

「台本通りやるだけだろ?本番になったらもっとスタッフもカメラも周りにいるんだぜ」

 

「んっ…それはわかってるけどさ…」

 

「ま、慣れだな。今のうちに慣れとけ」

 

余裕そうに笑いながら
涼真くんがペンで台本のシーンを指差す

 

「今日やんのは…付き合い始めた後の初めての夜のシーンな」

 

「……うん」

 

「最初からちゃんと気持ち作ってやれよ?ただセリフ読むだけじゃダメだからな」

 

「……わかった」

 

私は深呼吸して
ページをめくった

 

 

『…ねえ……今日は…まだ帰らないで…?』

 

 

隣の涼真くんが
すぐに返してくる

 

『ん?…急にどうした?』

 

『……だって、やっと会えたのに…』

 

自分でも驚くくらい
声が小さくなっていく

 

『…可愛い…寂しかった?』

 

『……うん』

 

涼真くんは
少しだけ体を前に傾けた

 

『俺もほんとは、もっと早く抱きしめたかった』

 

セリフの言葉が
妙にリアルに響いてくる

 

『……私も…』

 

手元の台本を持つ手が
自然と強くなってた

 

 

「そこで一回止めよ」

 

涼真くんの声が入る

 

「……え?」

 

「今のな、悪くはないけど…もうちょい視線とかも相手の目を見る場面入れた方がリアルだし感情入れてもいいかも」

 

「感情…?」

 

「ああ。今の“私も”のとこ、もうちょっと目線合わせて言ってみろ」

 

「……え、目線…?」

 

「芝居は目で伝えるもんだろ。相手役見ながら自然に言えたら、それだけでも一気に空気感出るから」

 

そう言われて
私はゆっくり顔を上げた

 

距離が…近い…………

 

涼真くんの目と
自然に視線がぶつかった

 

「もう一回今のとこな」

 

涼真くんが低く促してくる

 

『……私も…』

 

目を合わせながら言った瞬間

自分の鼓動が跳ねた

 

「…ほら…いい感じだろ?」

 

「…えっ…わかんない」

 

「なんだそれ、そこは分かれよな」

 

ニヤッと笑う涼真くん

 

私は思わず台本から目を逸らした

 

「……ちょ、ちょっと水飲んでくる」

 

「逃げんなよ?」

 

「に、逃げてないし!」

 

私は思わず
立ち上がりながら
顔が熱くなるのをごまかしてた