翌日

 

撮影終わりに
少しだけ早く現場を出た帰り道で

 

なんとなく涼真くんにメッセージを送ってた

 

《あの…ちょっと話聞いてもらってもいい?》

 

既読がすぐついて

 

《いいよ。会って話すか?いつにする?》

 

《涼真くんが良ければ…今日って大丈夫?》

 

《おう。今ちょうど終わったとこだし、今から行ける》

 

 

合流したのは
いつものあのカフェだった

 

半個室の席に通されて
席に着いた瞬間

 

「……で?なんだよ」

 

涼真くんが
軽く肘をつきながらこっちを見る

 

「えっとね…」

 

私は
胸の中を整理しながらゆっくり話し始めた

 

「次のドラマ、決まったんだ」

 

「お、おめでとうじゃん」

 

「…あ、ありがとう…」

 

「すげえことだよ、こんなすぐに主演もらえるって」

 

「…うん…すごくありがたいなって思ってる」

 

嬉しいような
照れくさいような気持ちで下を向いた

 

「で…さ?あの…」

 

「ん?どした」

 

「その…今回はベッドシーンがあって…」

 

言いながら自分でも声が小さくなった

 

「…はは…なるほどな」

 

涼真くんの表情は
全然驚いた様子もなくて

 

「まあ、いつかは奈々にもそういう撮影
来るだろうと思ってたけど」

 

「そんな軽く言わないでよ…」

 

私は少しだけ顔を赤くして俯いた

 

「……正直、不安で」

 

「そりゃそうだろ」

 

「できるのかな…私に」

 

「何言ってんだよ、できるって」

 

即答だった

 

「お前は誰より芝居にちゃんと向き合ってんだろ?
だからちゃんと結果も着いてきてんじゃん」

 

「うん…だけどさ」

 

「奈々…気持ちは分かる」

 

涼真くんは
ゆっくりコーヒーを一口飲んだ

 

「俺も初めてベッドシーンがある主演もらったとき、正直ビビり散らかしてた」

 

「え…涼真くんでも?」

 

「ああ。その時の俺は別にそういう経験があったわけじゃねぇしな」

 

少しだけ笑ったその横顔を見ながら
私は自然に口を開いてた

 

「…え…どうやって乗り越えたの?」

 

「んー…」

 

少し考えてから
涼真くんがこっちを見た

 

「相手役にちゃんと信頼してもらえるように精一杯役にも入り込んだかな」

 

「信頼…」

 

「芝居の中で相手に安心させる空気作れたら、変に緊張もしねぇし自然に動ける」

 

…私は黙って頷いてた

 

「けどまぁ…奈々は今そこが一番分かんなくて悩んでんだもんな?」

 

「……うん」

 

涼真くんは
少しだけ前に身を乗り出してきた

 

「……じゃあさ」

 

「……?」

 

「本番前に、軽く練習付き合ってやろうか」

 

心臓が軽く跳ねた

 

「……練習?」

 

「ああ。別に変な意味もねえよ?
ある程度の感覚掴むくらいの手伝いくらいなら
俺も協力はできるし」

 

…私は迷った

 

──練習…
──でも…涼真くんと…?

 

けど
信頼できるのは
やっぱり涼真くんだった

 

「ええっと……お願い、してもいい?」

 

「は?んなの、いいに決まってんだろ」

 

ふっと笑う涼真くんの顔が
やけに優しく見えた