魔法のマーメイドクラブ

 戻っているヒマはない。猫のシャンスを連れたまま、わたしたちは、空の先へと進む。

『コレハタマゲタニャン。オマエラ、フユウツカイカニャン?』
「ン〜、ちょっとあってるケド、ちょっと違うネ!」

 前を浮くアクアちゃんが、あははと笑う。
 カナトくんの頭の上で、シャンスは『ほーん』とそっぽを向いた。

「もしかして、シャンスしゃべってる? 俺も、話せたりするかな」

 目をキラキラさせながら、カナトくんがシャンスを抱き下ろす。
 ふわりと前へ来たアクアちゃんが、カナトくんの両耳にペラペライヤホンをつけると。

『コイツラノコト、マダシンジテナイニャン』
「シャンス……やば、感動すぎて……」

 ふてぶてと話すシャンスを見て、涙ぐんでいた。
 長く連れ添った友だちなのかな。
 わたしは飼ったことがないけど、ペットとお話しできるなんて夢のようだもん。嬉しくて当然だよ。

「とりあえず、アクアのおばさん家めざソウ〜♪」

 心配になってふり向いたけど、カナトくんのお母さんの姿はない。気づかれてなかったと、ホッとした。
 前あった秘密基地の上を通り、雲をかきわける。
 空の上には信号機も車もないから、待ち時間もない。事故もないから、安全。

 ……じゃなかった。すっかり忘れていた。空には、危険な生き物がいること。
 真っ黒の翼をバサバサと広げて、わたしたちの前に現れた。またカラスだ。今回は、三羽もいる。

「なんだ? こいつら」

 まるで、通せんぼうしているみたい。空は広いから、いくらでも避けられるけど……捕まったら終わり。

「この子たち、ウィングスニーカーを狙ってるの。前も大変だったから、気をつけないと」

 身がまえたら、じっとこっちを見ていた一番大きなカラスが、急に飛び上がった。

『ニゲロ』

 それだけ言い残すと、他の二羽を引きつれて去って行った。