魔法のマーメイドクラブ

 シャーッとカーテンが開いて、カナトくんが顔を出した。
 ふくよかな猫を抱っこしながら、窓をスライドする。

「二人とも、なんでここに」
「チームアクア、助けにキタッ!」

 ウィングスニーカーを渡して、アクアちゃんがエッヘンと笑う。
 勉強中だったのかな。机の上に、ページの開いた問題集が並んでいる。
 カナトくんは成績優秀だから、平日の夜や休みの日はずっと勉強をしていると聞いていた。

 わたしたち、こんなことをして、迷惑だったんじゃ……。
 一瞬、考えたことが頭から消えた。カナトくんが、嬉しそうに笑っていたから。来て、間違いじゃなかったんだ。

「逃げよう」

 差し出した手を、カナトくんがゆっくり握ってくれる。
 いきおいにまかせて、こんな大胆なことしちゃった。初めて、男の子と手を繋いだ。すごく恥ずかしい。

 ウィングスニーカーをはいたカナトくんの体が、ふわりと浮かぶ。
 わたしたちの足元の羽根を光らせて、カナトくんが窓を閉めようとしたとき。

『コラ、マツニャン!』

 降ろされた猫が、ニャンニャンと吠えた。

「シャンス、ごめん。このこと、父さんには内緒にしてて。俺たちの仲だろ」

 頭をなでて、カナトくんが背を向ける。
 言葉は理解できていないようだけど、猫ちゃんの熱意は伝わったみたい。
 ごめんね、猫ちゃん。カナトくんには、息抜きが必要だから。

「カナト〜? シャンスが騒がしいけど、なにしてるの?」

 向こうの方で、お母さんらしき人の声がした。こっちへ近づいて来ているようだ。
 見つかる前に、早く脱出しないと!
 ベランダの手すりに立って、タンッと大きくジャンプする。

『……ッタク、シカタナイヤツニャン』
「うわっ、シャンス⁉︎」

 飛び立つ瞬間。猫がカナトくんの足へしがみつき、トトトと背中から頭へと乗り移った。
 ええー! カナトくんのペットまで、ついて来ちゃった!