魔法のマーメイドクラブ

 みんなが見守る中、カナトくんがタルトをサクリとかむ。
 もぐもぐもぐと、静かな部屋に効果音が流れて。

「……うまいかも」

 ほろっと笑顔がこぼれて、わたしは思わずアクアちゃんとハイタッチする。
 波木さんも嬉しそう。勇気を出して、自分の意見を伝えてよかった。

「なんでも挑戦するのが一番。今、そのまま食べる選択をしたから、いちじくタルトの味を知ることができたでしょ? 自分に合うかどうか、決めるのはそれからでいいの」

 口元を拭いて、カナトくんが頭を下げる。

「食べる前から味を変えようとして……失礼なことして、すみませんでした」

 申し訳なさそうにする姿に、波木さんはフフッと笑って。

「エッセンスを使う選択が、間違いだとは思わないわ。それもまた、霧谷くんの答えなのよ」

 棚の大きな鏡をテーブルへ置いて、波木さんが続ける。

「先入観……思い込みって、いろんな可能性をつぶしちゃうの。見えてるものを見えなくしたり、その逆もあるわ」

 見えないものが、見えてしまうってこと?
 少しむずかしい話は、頭の中がごちゃごちゃになってしまう。

「でも、タルトを食べてくれてもちろんうれしかったわよ。霧谷くんが、挑戦する選択をしてくれたこと。それから、美波ちゃんやアクアが人の意見に関係なく、好きだとハッキリ言ってくれたこと」

 笑いかけてくれて、ホッとした。
 わたしのしたことは、間違っていなかったと。
 白雪姫の魔女が使うような鏡に向かって、波木さんがジャラリとブレスレットを振る。
 ブツブツと何かとなえているみたい。これは、呪文なのかな?

「ナニナニ? 鏡が、グルグルなってるヨ!」

 表面がうずまいて、鏡の境目がなくなっている。手を入れたら、吸い込まれちゃいそう。