魔法のマーメイドクラブ

「……そっか! ううん、なんでもないヨ。足、もう治った〜?」
「あっ、うん、もう大丈夫みたい」

 つっていた足を、くいくいと動かしてみる。痛みはないし、問題はなさそう。

「ヤッタ! じゃ、あとはガンバッテネ!」
「あ、ありがとう!」

 次を待つボートが見えてきた。まだ二十五メートル以上はあるけど、頑張らないと。
 泳ぐ体勢になると、アクアちゃんはゆらりと海底へ消えて行った。
 沈んでしまったけど、人魚だから大丈夫なんだよね? 見つからないように戻れるかな。
 そんなことを考える余裕はあまりなく、必死に泳ぎ続ける。

 息つぎがつらくなってきた。あと、もう少しーー。
 なんとかたどり着いて、りっちゃんへつなぐことができた。三班が一番速い。
 でも、自分の力でやり遂げたわけじゃない。この一着は、アクアちゃんのおかげだから。

 ゴムボードへよじ登り、ケホケホとせきをする。頭がボーッとしている間に、二着の人が上がってきた。

「ちょっと、美波ちゃんすごいじゃん! なに、あの速さ。急にスピードアップしてたよね」

 いきなり声をかけられて、固まってしまう。
 マナちゃんの仲良しグループの子。今までに、話したことは二回ほど。

「あ、あれはね……えっと」

 だんだんと口が閉じていく。
 言えない。本当のことを話したら、アクアちゃんの秘密がバレちゃう。他に、いい理由が見つからない。

「そうとう練習したでしょ」
「……う、うん」

 たくさん練習したのは事実だけど、どう答えたらいいんだろう。
 言葉に悩んでいたら、他の人たちもボートへ着いて、わたしのそばに集まってきた。

「正直、花池さんになら勝てると思ってたけど。負けたわ〜。一着、おめでとう!」
「えっと、これは……」
「授業のアレは、敵をあざむくためだったんだな〜? 水泳クラブ入りなよ」

 どんどん言い出せない空気になっていって、ちゃんと説明ができないまま、沖合水泳競争は幕を閉じた。