夢嘘―壊れた私が、やっと愛されたはなし。

――もう二度と会わない。
そう思ってた。

あの別れがすべてだった。
私の青春で、傷で、そして終わり。
そのはずだった。

数年が過ぎて、私も大人になった。
あの時の彼のことは、
「思い出」という引き出しにしまって
鍵をかけて。見ないふりをしていた。

けれど――
運命は、ときどき意地悪だ。
23歳、春。友人の告別式。

冷たい空気の中、深く頭を下げる人々。
遺影の前で
胸がぎゅっと締めつけられたそのとき。

不意に感じた視線。
目を上げた先にいたのは
懐かしくて、苦しくて
もう触れてはいけないはずの人が、
変わらぬ瞳で私を見つめていた。

風が止まったように
場の音がすべて遠くなった。

「……また、会えたな。」

変わらない声音。
変わったはずの時間が、一瞬で巻き戻される。

胸が高鳴って、呼吸が浅くなって。
それでも
懐かしい感情が溢れて止まらなかった。

会いたかったわけじゃない。
でも、会ってしまったその瞬間
心臓が馬鹿みたいに跳ねた。
“終わった”はずの気持ちが
体の奥で暴れ出す。
心が、勝手に走り出していた。

「元気だった?」

そんな当たり前の言葉でさえ、刺さる。
彼の視線が
少しだけ懐かしさを滲ませていて、
私はその優しさに
また甘えてしまいそうになった。

「……また、連絡先、教えてくれる?」

たった一言で、引き出しの鍵が外れてしまった。
もう戻らないと思っていたページが、
ふたたびめくられていく。

携帯を差し出しながら、心のどこかが
「また同じことになるかもしれない」
…と叫んでいた。

けれど、その不安よりも――
“もう一度彼と話せる”という喜びのほうが
ずっとずっと大きかった。

あの頃とは違う。
私たちは、もうとっくに大人になっていた。

けれど、
彼の一言で笑えてしまう自分も、
すれ違っただけで胸が鳴るこの感情も――
何も変わっていなかった。

あの日々が一瞬で蘇った。心臓が痛いほど鳴った。

交差点のようなこの瞬間、
わたしはまた、彼という名前の運命に
足を踏み入れていた。