たくさんの傷と、涙と、
そして、数えきれない選択を越えて――
私はいま、穏やかな日々の中にいる。

あの頃の私は
何かになりたかったわけじゃない。
ただ、
生きたかっただけ。
それだけだった。

痛みを抱えながらも、
信じることを手放さなかった
あの頃の私がいたから、
いま、私はここにいる。

「生きててよかった。」

と思える日が来るなんて――
そんな未来を、
あの夜、夢の中でさえ想像できなかった。

でもいま、
私の名前を優しく呼んでくれる人がいる。
その声が
心のすべてをふわりと包み込んでくれる。

彼と出会って、
少しずつ言葉を交わして、
たくさん笑って――
ある日、彼がまっすぐ私を見つめて言った。

「俺と一緒にいてくれないかな。
君のこれからの時間を、
少しでも多く隣で過ごしたい。」

私は頷いた。
迷いはなかった。
過去の痛みも、傷も、
彼の優しさの前では静かに溶けていった。

その日から、
私たちは恋人として歩き始めた。
他愛ない会話、平凡な一日。
全てが愛おしいものに変わっていった。

そんな彼と過ごす毎日が、
私の「普通」になっていった。

そして今。
彼と結婚した私は、
やっと穏やかな毎日を手に入れた。
お腹には新しい命が宿っている。

あの日、絶望の中で見上げた空を
もう一度見上げる日が来るなんて、
あの頃の私は想像もできなかった。

どんな過去があっても
どれだけ傷ついても
人はやり直せる。
本当の愛は、嘘を塗り重ねた夜の底から
静かに芽吹くものだった。

辛かった過去も、消えるわけじゃない。
今も時々、夢に見ることもある。

でも、私はもう、戻らない。
あの頃の私に、教えてあげたい。

「大丈夫、ちゃんと幸せになれるよ」って。

あの長くて暗い夜の先には、
こんなにもあたたかい朝が待っているって、
知らなかっただけなんだ。

そして今、
新しい朝が、静かに始まっている。

私は、もう、
泣いてばかりいたあの日の私じゃない。
過去を背負いながら、それでも前を向いて、
この小さくて尊い命を守っていく。

あなたと笑う、この未来のために。