「証拠は…これで十分だな」

斗真先輩が小さく呟いた

 

スマホの中には
理玖と瑠奈の裏切りが、もう逃げ場のないほど並んでいる

 

でも──

 

私は、すぐには決行しなかった

 

今すぐ壊すことは簡単だった
けど、それじゃ足りなかった

 

「……もう少し、このままにしておく」

 

斗真先輩は驚いたように私を見た

 

「…耐えられるのか?」

「平気です。…むしろ、今はまだ壊したくない」

 

油断させる
もっと高く登らせてから──突き落とす

 

「…本当、お前…強くなったな」

 

斗真先輩は少しだけ寂しそうに笑った

でも
私の頬にそっと触れた指先は
いつもよりほんの少しだけ、長くそこにいた

 

 

それからの日々

 

私は
理玖と今まで通り会っていた

 

「紗奈、最近また可愛くなった?」

「何それ、急に」

 

笑いながら理玖の腕に抱き寄せられて
私は甘えるフリを続けた

 

(最低だね、ほんと)

 

瑠奈とも、いつも通りランチに行った

 

「紗奈、来週の女子会楽しみだね」
「うん、楽しみ〜!」

 

こんな日常を続けることで
あの二人はますます安心しきっていく

 

“まだ何もバレてない”って
心底思わせたまま、崩すのがいい

 

 

──でもその裏で
私は斗真先輩とだけ、別の時間を積み重ねていった

 

「……紗奈、最近…ほんとに無理してないか?」

「……たまに苦しくはなるけど」

 

夜の帰り道

ふと、斗真先輩が歩幅を合わせて手を伸ばしてくれる

 

「…頑張りすぎたら、壊れちまうぞ」

 

私は迷って
少しだけ、その手を取った

 

「あの人たちを壊すまでは──壊れたくないから」

 

斗真先輩は
私の手を優しく包み込んだまま、何も言わなかった

でもその沈黙は
どんな言葉よりもあたたかかった

 

 

──あと少し

 

私は獲物が油断してるのを
じっと冷静に待っていた