あの日から
私は少しずつ”いつもの私”を頑張って演じていた
 

でも


本当はずっとぐちゃぐちゃだった

 

「無理してないか?」

 

カフェの帰り道
斗真先輩が歩幅を合わせながら静かに聞いてきた

 

「…え?」

「無理して笑ってるだろ、お前。…わかるよ」

 

私は少しだけ視線を伏せた

 

「……泣いても何も変わらないから」

「泣くくらいはいいんだよ」

 

斗真先輩は優しく笑った

 

「…ほんとに、強いな紗奈は」

 

その一言で
少しだけ、心の奥が温かくなった気がした

 

「…でも、悔しいよな」

 

斗真先輩の声色が少しだけ変わる

 

私は小さく息を飲んだ

 

「……悔しい。…すごく、悔しいよ…」

 

言葉にした瞬間
胸の奥で静かにくすぶっていた炎が、少し大きくなった

 

斗真先輩は優しく頷いた

 

「だったら、今は焦らなくていい。でも…どうしても辛くなった時は──その時は、俺が力になるから」

 

私はしばらく黙って
それからゆっくり、斗真先輩を見上げた

 

「……ありがとう、先輩」

 

それが
私が”踏み出す決意”の始まりだった

 

 

──この日から私は
ただの被害者じゃなくなる準備を始めた