それは、ほんの小さな偶然からだった

 

理玖の家での勉強会

いつものように、理玖がコーヒーを入れてくれて
お菓子を並べてくれて
私の好きな音楽がゆるく流れていた

 

「はい、甘いの。疲れたら食べな?」

「ありがと」

 

そこへ
ピンポーン、とインターホンが鳴る

 

「お、来た。紗奈、開けてくれる?」

「うん」

 

扉を開けると、笑顔の瑠奈が立っていた

 

「お邪魔しまーす!」

 

3人で机を囲んで課題を進める

理玖は瑠奈にも気さくに話しかけ、瑠奈も自然に会話に入ってくる

…いつも通りの、はずだった

 

でもふと、スマホを開いた時
Wi-Fiが自動で接続されているのに気付いた

 

──「RIKU_HOME 接続済み」
──「成宮瑠奈 自動接続済み」

 

一瞬、脳内が凍り付く

 

…え?

 

瑠奈のスマホが──自動で?

 

それは
以前ここに来て
パスワードを入力したことがある、という証拠だった

 

私はゆっくり呼吸を整える

 

何も聞かない

今は──まだその時じゃない

 

表情を変えずに
私は笑ってプリントに目を戻した

 

「…ふふ、ここの計算式、なんか苦手なんだよね」

 

理玖も、瑠奈も



まるで何も知られてないと思って

いつもの顔で笑っていた