「…紗奈、付き合ってほしい」

 
2つ上の理玖から
告白された日___

夜景が滲んで見えたのは
理玖の言葉のせいなのか
それとも泣きそうになった自分のせいなのか、もうわからなかった

 

目の前の理玖は
少し緊張した顔で私の手を取る

 

「ずっと紗奈のことが好きだった。
…俺と、ちゃんと付き合ってくれない?」

 

その声はずっと優しくて
その瞳はまっすぐ私だけを映していた

 

私は小さくうなずく
涙がこぼれそうで慌てて笑う

 

「…うん。よろしくお願いします」

 

理玖が笑って
そっと私を抱き寄せてくれる

 

「まぢで幸せにするから」

 

その時は
本当にそう信じてた

理玖の腕の中は
世界で一番安心できる場所だった

 

 

──あれから一年

 

理玖の部屋で映画を見ていた
何気ない土曜の夜

 

「ジュース取ってくる。紗奈はなんでもいい?」

「うん、大丈夫」

 

理玖の部屋はもうすっかり私にとっても”いつもの場所”になっていた

 

映画が終わると
理玖はゆっくりと私の隣に戻ってくる

 

「紗奈、こっち…来いよ」

 

腕を引かれて、そのまま理玖の膝の上に座る形になる

 

「…もう、理玖っ…ばか」

 

そう言いながらも、私も理玖の首に腕を回していた

 

唇が重なる
深く、長く
息が止まりそうになる

 

「…好きだよ、紗奈」
「…私も、理玖が好き」

 

服の上からなぞられる指先が
だんだん熱を持っていく

理玖の優しさはいつも私を焦らさず、だけど確実に欲しがってくれる

 

──理玖が求めてくれることが嬉しかった

 

抱き合ったまま朝を迎えるのも、もう特別なことじゃなくなっていた

 

 

そんな私たちに訪れた
私の誕生日

 

理玖は予約してくれたレストランに私を連れて行ってくれた

 

「ほら、ここ夜景綺麗だろ?紗奈が好きそうだなと思ってさ」

 

「…すごい、綺麗…!ありがとう、理玖」

 

理玖は微笑んで
カバンから小さな箱を取り出す

 

「これも、誕生日プレゼント。開けて?」

 

箱を開くと、中にはシンプルなシルバーのネックレス
理玖が以前「こういうの好き?」と聞いてくれたデザインだった

 

「…理玖、覚えててくれたんだ…」

「当たり前だろ?お前の喜ぶ顔見たくて頑張ったんだから」

 

ネックレスをつけてくれる理玖の指先は少し震えていた
その不器用さがまた、愛おしかった

 

「似合ってる。…お前、本当にかわいいな」

 

今の私は
疑う理由なんて、どこにもなかった

 

…この幸せが、永遠に続くと信じてた

 

 

──だけど
あの時すでに

理玖の裏切りは始まっていたんだ