カフェを出たあと、兄は早々に消えた。
残った私と凪はそのまま車に戻る。
助手席に乗り込むと、凪がふっと目を細めてこちらを見た。
「なぁ――」
「ん?」
「このまま、星でも見に行くか」
突然の誘いに一瞬きょとんとする。
「え…星?」
「たまにはいいだろ。今夜天気いいし」
そう言ってエンジンをかける凪。
私が返事をする前に、車はもう静かに走り出していた。
少し郊外まで出ると、街の灯りも小さくなっていく。
車内は静かで、でもどこか心地いい沈黙が流れていた。
窓の外には満天の星。
山道を少し登った先の展望台に着くと、凪は車を停めた。
「ほら」
助手席の私を覗き込む。
「……すごい…」
夜空一面に広がる星たちが瞬いていた。
こんなに綺麗に見えるなんて思ってなかった。
「……こういうの、見に連れてくるタイプだったんだ」
私がぽつりと呟くと、凪は小さく笑った。
「失礼かよ……俺だって意外とロマンチストなんだわ」
「似合わない…」
「うるせぇ、犯すぞ」
ふたりでくすっと笑い合う。
けど、そのあと凪の目がふっと細くなる。
「……けど、どうせなら」
「ん?」
「夜景見るより――」
ゆっくり近づく凪の顔。
「お前の顔眺めてる方が飽きねぇけどな」
「~~~~っ…!」
また顔が一瞬で熱くなる。
「な、なんでそうやっていちいち…!」
「ん?反応が楽しいから」
ほんとに、意地悪。
でもその余裕の低い声に、心臓がドクドクするのを止められなかった。
そのまま凪は私の頬に手を添えて、唇を近づける。
ゆっくり、優しく触れるキス。
でもじわじわと温度が上がっていく。
唇が離れたあと、凪が低く囁いた。
「――で、今夜はどんなプレイがお好みで? ななせさん」
「――――――っ!!!」
心臓が跳ねたまま、固まる。
「は…!? ち、ちが、ちがっ……な、なに言ってんの!?」
あたふたする私を見て、凪はわざとニヤリと笑った。
「ばーか。冗談に決まってんだろ」
そう言いながら、凪は優しく私を引き寄せ、再びそっと抱きしめてきた。
耳元に落ちる甘く低い声――
「でも…全部委ねてくれてもいいけどな?」
ドクン、と胸が跳ねたまま、私は何も言えずに凪の胸に身体を預けた。
凪くんの腕の中は、やっぱりあたたかかった。
心臓はまだバクバクしてるのに、不思議と安心感の方が勝っていた。
「……ほんと、意地悪だよね」
私が小さく呟くと、凪はふっと小さく笑った。
「知ってる」
そのまま凪の手がそっと私の髪を撫でる。
指先が絡むたびに、背中がゾクッと痺れる感覚が走った。
「でも――」
「ん?」
「お前だからいじめたくなる。もっと俺に甘えろよな」
耳元に低く囁かれて、また息が詰まりそうになる。
「……甘え、てるよ……これでも…」
「だとしたら…まだまだだな」
凪はニヤッと笑って、軽く私の顎を持ち上げる。
そして再び唇が重なる。
さっきよりも少し深く、少し長く――
甘く優しく、でもじわじわと熱を含んでいく。
唇が離れた瞬間、凪が低く囁く。
「なぁ――逃げんなよ?」
私は静かに小さく頷いた。
「……逃げないよ」
「全部、俺に預けろ」
ドクン…ドクン……
息が熱を含んで、身体がほんのり震え始める。
そのまま凪はゆっくりシートを倒した。
車内に静かに倒れていくシート音が響く。
そして私の顔を見下ろしながら、ニヤッと悪戯っぽく笑う。
「…なぁ
野外で…しかも車ん中って…えろいと思わね?」
「っ…!? な、なに言ってんの…!」
あたふたする私を見て、凪はわざとらしく目を細める。
「んだよ――俺ららしいだろ?」
そのまま唇が近づいて、また静かに重なる。
今度はもう何も言えなくて、私はただ身を預けた。
「…ばか…好きだよ、凪くん…」
「――ああ、俺も」
そして夜の車内に、甘く静かな熱がじわじわと溶け込んでいった――



