放課後。
校門を出ると、黒い車がいつもの場所に静かに停まってた。
今日も、迎えは凪くん。
でも――今日はなんとなく、こっちのドキドキが強かった。
助手席に乗り込んでドアを閉める。
「乗ったか」
「……うん」
シートベルトを締めると、車が静かに発進した。
窓の外を流れる景色をぼんやり見ながら、私は無意識に小さくため息をつく。
それに気づいたのか、凪くんがふと口を開いた。
「……お前さ、ちょっと疲れてんだろ」
「……そう?」
「顔に出てんだよ。寝不足だろ?」
「べ、別に…」
凪くんはハンドルを片手で軽く回しながら、横目でちらっと私を見る。
「ん。じゃあ目、閉じろ」
「ん、大丈夫…」
その瞬間、凪くんの低い声が少しだけトーンを落とした。
「あ?寝とけっつってんだよ」
「……」
私は思わず目を逸らす。
それでも凪くんは淡々と続ける。
「今すぐ寝ないなら――」
少しだけ口元を緩めながら、わざと低く囁く。
「……犯すぞ?」
「――っ!!!」
一気に顔が熱くなった。
「な、なに言ってんの!?」
「冗談だよ」
「ほんとやめてそういうの!お兄ちゃんに言いつけるからね!」
凪くんはふっと笑った。
「それだけは勘弁」
クスクスと笑う凪くんの横顔を見ながら
私はもう心臓が暴れて仕方なかった。
(……ほんともう、無理かも…)
(やばい、ほんとにやばい…)
その夜――
お兄ちゃんはリビングで慌ただしく電話をしてた。
内容まではわからない。
でも声色が、普段より少しだけ緊迫してた。
電話を終えたお兄ちゃんがこっちを見る。
「他所がちょっとまた面倒くさい動きしてきたらしい」
「……危ないの?」
「今はまだ大丈夫。でもな――油断はできねぇ」
お兄ちゃんの表情は軽く笑って見せながらも
奥には張り詰めた空気が滲んでた。
私は胸の奥で静かに緊張し始めてた。
ほんの少しずつ、危ない世界が近づいてきてるのを感じながら――



