幼馴染×存在証明

もう直ぐ、午後の授業が始まる。


本当は教室へ向かうべきなのだろうけど、私の足取りは頼りなく、ただ教室から遠ざかるばかりだった。


どういう、ことだろうか。


先ほどの彼との会話が、頭から離れない。


彼はどうしてさくらを知っていたのか。


さくらが私を、探しているのだろうか。


まさかこの高校に、いたりする?


「"さくら"…」


そう口にした瞬間、頭の中で声が響いた。


『涼香、お前は、どうしたい?』


ゾクリ、と。


蘇る記憶に寒気が走る。


アスカの冷たい冷笑が、瞳の奥の怒りが。


閉まったはずの恐怖が、蘇る。


見たくもない光景が脳裏に広がる。私の大切なもの、大切だったもの。


震える私の答えはいつも決まっていた。


そう、いつも…


「アスカさん!待ってくださいー!」


突然、近くから飛んできた言葉に、ハッとして顔を上げる。


「あ…アスカ…?」


どうやら向かいから、アスカが数人の生徒と共に歩いてくるようだった。


…ヤバい。


できれば、今はアスカと会いたくない。


だけど、アスカはそういう時に限って、私の"そういう空気"を掴むのが上手いのだ。


パチッと、視線が交わった気がした。


「アスカさん…?」


「先行って」


アスカが周りの生徒にそう声をかけ、真っ直ぐこちらへ向かってくる。