あの夜から
私は何度もスマホを握っては
画面を眺めるだけの日が続いた

 

──送れない

どんな言葉を書いても
送信ボタンを押す指が止まる

「…会いたい」

小さく呟くだけだった

 

でももし私から連絡したら
飛悠くんに”重い”って思われるんじゃないかって
それが怖くて送れなかった

だって
あの夜
私が壊れかけたの、絶対わかってたはずだから

 

“迷惑かけた”
“またあんなふうに思われたら嫌われる”

そんな考えがぐるぐるして
余計に身動き取れなくなった

 

…でも本当は
ほんの少しでも期待してた

──あっちから連絡が来ないかなって

 

通知が鳴るたびにスマホを見た
でも全部、友達からの他愛ないメッセージばかりで
胸の奥がまた冷えていく

 

何日も、何日も
そんなのを繰り返してた

 

その夜だった

画面に、たった一通だけ
違う名前の通知が光った

 

【今日、少しだけ時間ある】

 

心臓が跳ねた

息が止まったみたいになって
震えた指で何度も画面を見直した

──ほんとに、飛悠くん…?

 

たったそれだけのメッセージなのに
涙が出そうになった

返事を打つ指も震えたまま、ようやく文字を返した

 

【会いたい】

 

送信ボタンを押したあと
胸の奥がズクズクと痛くなった

だけど
ずっと苦しかったこの何日間より
今は少しだけ温かかった