あっくんこと十条専務が会社に説明に来てからは、毎日のように他の十条不動産社員が楓の勤める会社に来て仕事の話をした。
どうやら事務所もしばらくはこのまま移動せずに仕事は続けられるらしい。
しかし、大手である十条不動産の新しいシステムに移行するため毎日忙しい日々が続いた。
バタバタと慌ただしい日々を過ごしていたが、気づけばもう明日はお見合いの日だ。
楓は着ていく服も仕事用のスーツで行くしかないと思っていた。
お見合い当日。
少し早く帝都ホテルに到着した楓だが、妹の純玲も早々と準備万端でホテルのロビーにいたのだった。
純玲は牡丹のような花の刺繍が美しい振袖に髪を結いあげて、まるで日本人形のようだった。
継母は楓に気が付くとあからさまに嫌な顔をした。
「まぁ、お見合いに仕事用のスーツなんて…でもあなたにはお似合いね。」
父親は気まずい顔をするが、継母と純玲を前に何も言えないようだ。
楓はその場に居たたまれず、その場所から逃げるように歩き出した。
大きく溜息をついた楓が下を向いて歩いていると、前から男性が近づいて来た。
楓は床を見ているため顔が見えていない。
「…楓だよな…どうしたんだ、こんなところで。」
前から歩いて来たのは、なんとあっくんだったのだ。
あっくんは心配そうに楓の顔を覗き込んだ。
「あっくん…いいや…十条専務…あの…」
楓が言葉に詰まっているとあっくんは何かに気づいたような表情をする。
「楓、ちょっとついて来てくれ。」
あっくんは、楓の腕を掴むと急ぎ足で歩き始めた。
そして、どこかに電話もかけている。



