社長は皆の顔をゆっくりと見回しながら話し始めた。

「私達が手掛けて来たマンションや住宅の一部が街の再開発地域になっているのは皆も知っているだろう…しかし、そのマンションや住宅ごと、うちの会社は買収されることになった。…ただ、マンション管理や住宅のメンテナンスなどそのまま一つの事業部として残されるらしい…だから君たちはそのまま新しい会社の社員になれるよう話をつけて来た。」

「そ…そんな!!いきなりどういう事ですか!社長はどうなさるのですか!?」

声をあげる皆に向かって社長は笑顔を見せた。
しかし…すこし寂しそうな表情は隠せない。

「私は…もう還暦だし、そろそろ引退して第二の人生を考えて居たところでちょうどいい…うん…それがよかったんだ。」

楓はそんな社長に大きな声をあげた。

「そんなの…嫌です!!嫌に決まっているじゃないですか!」

すると社長は大きく首を横に振った。

「これはもう決まったことだ…それにこれから皆は大手の十条不動産の社員だぞ…堂々と胸を張って仕事してくれ。私が言えるのはもうそれだけだ…本当にすまない…」

この会社を買収するのは老舗の財閥系不動産の大手である十条不動産だった。
誰もが知る最大手の不動産会社だ。

皆が不安や戸惑いでザワザワとしている。