仕事が終わり楓は家に戻っていた。
今日は今のところなにも嫌がらせは無いことに安堵していた。
あっくんからは楓を心配するメッセージが届いた。
『楓、大丈夫かい?何かあればすぐに連絡してくれ。』
『はい、ありがとうございます。』
流石に今日はもうなにも起こらないだろうと思っていた時、突然部屋の呼び出し音がした。
楓は恐るおそる返事をする。
「どちら様ですか?」
「僕です。隣の部屋の伊織です。」
呼び出し音は隣の男の子だった。
楓はすぐにドアを開けた。
すると慌てた様子で話し始めた。
「すぐに僕の部屋に逃げてください。さぁ早く急いで!」
隣に住む男の子である伊織は楓の腕を掴むと自分の部屋へと楓を連れ出したのだった。
「あの…伊織君、意味が分からないのだけど。」
自分の部屋に楓を招き入れた伊織はドアのカギを占めて、楓に声を出すなと手で合図した。
楓と伊織は音を立てぬように息を殺して様子を伺った。
少しして隣にある楓の部屋のガラスが割れる音がした。
“ガシャン!”
その後、数人の足音が聞こえて来た。
「おかしいな…誰もいないぞ!部屋の中を隅々まで探せ。女がどこかに隠れているはずだ。」
男たちの声に楓は恐怖でフルフルと体が震えた。
伊織は楓の耳元で囁いた。
「大丈夫ですよ。ここにあなたが居るとは誰も気づきませんから。」
暫くの間、部屋の中を物色する音がしていたが、さすがに諦めたのか男たちが出て行く音がした。
伊織はカーテンの隙間から男たちが去るのを確認すると、どこかに電話を始めた。
「篤志君、急いで小柳さんを迎えに来てあげて。」
楓はその名前を聞いて驚いた。
「篤志君って、十条篤志さんの事なの?」
「そうだよ…もう隠してもしょうがないから言うけど、僕は篤志君から頼まれてこのアパートで君の隣の部屋に住んでいるんだ。」
「伊織君が引っ越してきたのは1年くらい前だよね…その時から頼まれていたの?」
「うん、でも何か非常事態になったら助けてくれくらいのことだけどね。まさか本当にこんな事が起きるなんて夢にも思っていなかったよ。」
「ありがとうございます。助かりました。」
「さっき、窓を開けたら怪しい男たちがアパートも周りでうろうろしていたから嫌な予感がしたんだ。間に合って良かった。」



