あっくんを見送った楓は、アパートの階段を昇って自分の部屋へと向かった。
楓の部屋はアパートの2階で階段から一番遠い奥の角部屋だ。
鍵を鞄から出して部屋の前へと進むと、楓の目に信じられないものが飛び込んで来た。
それはドアに何枚も張られた殴り書きの文字。
『身の程知らず!』『最低な盗人女』『何様のつもりだよバカ!』
楓を誹謗中傷する卑劣な貼り紙がドアを埋めるように貼られていた。
(誰がこんな事を…酷い!!)
楓はドアの貼り紙を急いで剥がし始めた。
そこへ隣に住む学生の男の子が帰って来た。
その男の子とは話はしたことが無いが、お隣さんなので面識はある。
男の子は楓の近くに寄ると、無言で楓の貼り紙を一緒に剥がし始めた。
「あの…ありがとうございます。」
楓が男の子にお礼を言うと、男の子がボソッと声を出した。
「なんかヤバそうな奴らだった。通りかかった僕にもわざとぶつかって来たんだ。気を付けた方が良いですよ。」
楓は男の子の言葉に驚きの表情をする。
「…どんな人たちでしたか?」
「一人綺麗なお姉さんがいて、そのほかはヤバそうな男が3人いました。気を付けた方が良いですよ。」
男の子は貼り紙を剝がし終えると、自分の部屋に帰っていった。
そして部屋に入る直前に楓の方を見た。
「あの…本当にヤバかったら僕の部屋に逃げて来てください。さすがに隣で傷害事件とか嫌なんで。」
「…はい。ありがとうございます。」
隣の男の子は不愛想だが結構親切だ。
よく見ると可愛いアイドルのような顔をしている。



