クズ彼氏の甘く危険な呪縛


「待てよ……俺らにしたこと、忘れたとは言わせねーからな」


ぶん、と風を切って拳が飛んできた。
反射的にかわして、殴り返す。
ドスッと鈍い音がして、一人が腹を押さえて倒れた。

あとは、もう流れだった。

――殴って、蹴られて、殴り返して。

数が多い、やってるうちに、どう考えても劣勢だとわかってきた。
息が荒くなっていく、足元がふらつく。口の中は血の味。

……クソ。何年ぶりだ、こんな泥臭ぇ喧嘩。

思い出したのは、高校時代のあの日。

殴った。理由もなく。ただムカついたから。そう思わせた。
だけど――本当は違った。

ヨリを見ていたあの目が、あの言葉が、全部が引き金だった。


「お前……昔から変わんねーのな……!」


俺の胸ぐらを掴んでいた奴が、口を開いた。


「お前をボコったあとは、あの女もやってやるよ……!アイツのせいで、俺はっ……あのとき……!」


……ああ。そうだったわ。

振り下ろされる拳を受け止める。