蒸し暑い夜だった。
汗が肌に張り付いて、吐いた煙もまとわりつく。

何本目の煙草かなんて、もうわからない。

ただ、あの家に帰りたくなかった。
あの夜のヨリの顔を思い出すだけで、吐き気がして心臓を鷲掴まれるような、最悪の気分になった。


『……わかった。いってらっしゃい」


傷ついたような顔をするくせに、俺を引き留めないところも。


『ぜ、ぜんぶ、すきだよ』


震えながら、なんとなく俺を愛してるふりをする素振りも。

いつもなら満たされる泣き顔も、謝るか細い声も、しゃくりあげる触れたら壊れそうな体も

全部がクソみてえな気分にさせた。

ぐしゃりと煙草の箱がつぶれる。


「――チッ、だりぃ」