頭を撫でた手が、頬をなぞる指が、顎を掴んだ力強い指先が……そして唇の熱が、まだ残っている気がした。
熱を帯びた視線――まるで、見透かすようにまっすぐ刺さってきたあの瞳が、今も胸の奥に焼き付いている。
あのとき確かに、私を見ていた。誰でもない“私”を。

目が覚めて、最初に思い出したのは、それだった。

枕元のスマホは黙ったまま、薄いカーテン越しに差し込む朝日が無防備に照らす。
部屋の空気はひんやりとしていて、毛布の中のぬくもりだけが、唯一現実を感じさせた。
でも、その温度すら、彼に触れられたときの感触に似ている気がして――私はまた、深く布団にもぐりこんだ。

私、昨日……何をしたんだっけ。

思い出そうとすると、胸の奥がふわふわと浮くような感覚になる。
夢みたいだった。いや、たぶん現実だった。
だって、あんなふうに見つめられて、あんなふうに触れられて、
――キス、まで、されたんだ。

唇にそっと触れる。指先に残るのは、気のせいの温度。
恥ずかしさと、恐さと、うれしさと。全部がぐちゃぐちゃで、自分でもわからない。
けど、たしかに思った。
あのとき私、「壊されてもいい」って……思ってた。

そんなこと、思ったことないのに。
自分の知らない一面が、彼に見透かされていく。


「……こんなの、私、知らない」


毛布の中で小さくつぶやいた声は、冷たい空気に吸い込まれて消えた。