クズ彼氏の甘く危険な呪縛

「……行くぞ」

その言葉が終わるのを待たずに、レオくんは走り出していた。
強くて、あたたかい手が私を引っ張る。不意を突かれたので、よろけそうになる。
だけどレオくんの手は離さなかった。

「ヨリ!待って……!」

悲鳴のような声が聞こえる。
それでも、後ろは振り返ることなく、ただ前を走るレオくんだけを見つめる。

彼の背中に縋りつくように。

ふと見上げた空から、白いものがひとひら、ふわりと舞い降りた。

「……雪?」

そのひとことが漏れた直後には、もう世界は音もなく白く染まり始めていた。
舞い散る雪が、ふたりの足元に静かに積もっていく。
息は白く、手は冷たいのに、不思議と心は冷えなかった。

レオくんの手が、きゅっと強くなる。
それだけで、鼓動が跳ねた。

――あぁ、私、もうダメだ

せっかくのチャンスを自ら投げ捨てた。
逃げ道だっていくらでもあった、なのに。

でも、レオくんが手を引いた。
私はそれに従った。何も考えずに。

卒業、おめでとう

頭のどこかでそんな言葉が浮かんだ。
でもその言葉が誰に向けたものかは、よくわからなかった。

高校は卒業できても、
レオくんからは――卒業できそうになかった。

手はまだ繋がれている。
雪は、止まる気配を見せないまま、ただ静かに降り続けていた。