名前を呼ばれて立ち上がる誰かの背中をぼんやり見送っていると、ふと視界の先、式場の後方の来賓席に目が留まる。

……お母さんが、いた。

姿勢を正して座っている。こちらに気づいた様子はないけど、きっと私のために、来てくれた。

胸が少しだけ温かくなる。

みんながこうして、きちんと卒業していく。

私も、普通になれるの……?今からでも、遅くない……?

何事もなく、名前を呼ばれて、証書をもらって、誰かと笑って写真を撮って……。
お母さんと帰って、ささやかなお祝いして。
そうして、レオくんのことを忘れて過ごして……。

――本当にそれでいいの?

心臓がどくりと嫌な音を立てた。

スマホを見る。
画面は暗いまま。通知は一件もなかった。

ひゅっと息が詰まる。

名簿の順番が、自分の番へと迫ってくるのがわかった。

鼓動が早くなる。

――わかってる。

ここで式を終えたら、私は本当に“卒業”してしまう。
高校だけじゃない。レオくんとの関係も、全部。

――レオくんは試している。私がここに残るか、彼のもとへ行くか。

結果はきっとレオくんにとってはどっちでもいいんだろうな。

優しいようで、なんて残酷なんだろう。

――わたしはとっくに、レオなしでは生きていけないのに。