朝。
眠りが浅かったせいか、アラームよりも先に起きた。
充電していたスマホには通知はひとつもなかった。

それが珍しくて、なぜだかひどく不安だった。


『おはよう』


送ったメッセージにはいつまで経っても、既読の文字がつくことはなかった。

機嫌が悪いのかもしれない。
ここ最近――卒業式が近づくにつれ、レオを纏う空気が少しずつ重く、冷たくなっていった。

それに比例するように、私たちの過ごす時間も減っていた。

だからなのか胸にぽっかりと穴が開いてしまったように感じていた。

制服に袖を通し、いつもどおり髪を整えて、家の中を静かに歩く。

お母さんの部屋の前で、そっと立ち止まる。
固く閉ざされたドアは、今日も何も語らない。
それでも私は、小さい子供のように囁いた。


「……今日、卒業式なの」

「……」


返事はなかった。
この時間に起きているかもわからない。

もしかしたら……と期待してた心が萎む。

「……いってくるね」

リビングには変わらず、お金だけが置いてあった。
それを手に取ることはしないで、家を出た。

3月の朝は、思っていたよりも肌寒くて、心細かった。
握ったスマホは、ずっと無言のままだった。