お母さんの部屋は、今日も鍵が閉まっていた。
お父さんは、もう1週間帰ってきていない。

リビングのテーブルの上には、また「ごめんね」と書かれたメモが置かれていた。
白い封筒の中には五千円札が二枚入ってる。

壊れた家庭。壊れた両親。
そして壊れかけた私。

誰かに必要とされたくて、ほんの少しでも期待してしまって、空っぽの心に愛情が欲しくてたまらなかった。


レオくんと出会ったのはそんなときだった。


「ねえ、俺のこと好き?」


からかいが滲んだ笑みを浮かべ聞いてきたのは、隣のクラスの男の子だった。
クラスでも学年でも有名な、女の子に人気で、でもちょっと怖い噂のある、そんな存在。

レオくん。

苗字は知らない。
けど、前に苗字を呼んだ人は、今はもう学校に来ていない————そんな噂が残っている。

教室も違うし、話したことも、接点もなかった。
なのに、放課後……まだ何人か残る教室で、彼は私にそう言った。


「付き合おうぜ」


すぐにわかった。これは嘘だ。
彼の軽く、茶化すような、演技かかった笑い。
視線を彼の背後へ向けると、くすくすと笑う誰かがいた。

私なんかに、人気者のレオくんが本気で告白してくるわけがない。
あまりにも不釣り合いだし、突然すぎた。