ぎりっとレオくんの手に力が入り、視界が揺れる。


「俺のモノが、勝手に、喋ってんじゃねーよ」


それは私に向けた言葉なのか。
私という”所有物”に向けた言葉なのか。
わからない……けど一つだけわかったことがある。

私は、レオくんの、”モノ”なんだ。


「ごめん、なさいっ。私、そんなつもりじゃ――!」

「ほら、周りに助け求めろよ。わんわんって、尻尾振れよ」


レオくんは、笑っていた。

口元だけ。目は、獣みたいに光ってるのに。


「誰も助けねーよ。お前が“俺のモノ”って知ってるからな。……触ったら、壊すって。……簡単だろ?」


誰かに、助けてって言えば、たぶん、声くらいはかけてくれる。
でも――私は、声を出せなかった。
出そうとも、思わなかった。

だって、レオくんに怒られるのが怖いからじゃない。
……違うの。
私が、選んだんだ。誰に言われたわけでもなく、自分で……レオくんを。


「なぁ……」


レオくんが、ふっと瞳をやわらげた。


「俺のこと、裏切ってまで守りたいような奴だった? あいつ。違うよなぁ?」


私の頬を、指先がそっと撫でる。
さっきまで私を壁に押し付けていた手と同じ手なのに、それはまるで愛おしむような動きだった。


「……ごめんな、ヨリ。俺、お前が他の男と笑ってるの、見たくなかっただけなんだよ」


そう言ったときのレオくんの顔が、本当に悲しそうで。
心臓が、締めつけられた。

私が、悪かったんだよね……?
怒らせるようなこと、したんだよね、私……。

涙が、止まらなかった。