クズ彼氏の甘く危険な呪縛




――――――



「ヨリ、ヨリ、ヨリ……」


ソファに降ろされると、レオは私の前に跪いて、溶けてしまいそうな声で名前を呼んだ。
その声を聞くだけで、さっきまでの怒りも混乱も、少しずつ霞んでいく。

私は、まだ少し息が上がっていた。
あんなふうに誰かに怒鳴って、感情をぶつけたのは初めてだったから。
胸の奥がすこし軽くなった気がした。でもその裏で、誰かを傷つけてしまった後ろめたさが静かに疼いていた。


「れお……」


名前を呼ぶと、すぐに返事が返ってくる。


「ん? どうした?」


言いたいことはいくつもあった。
でも唇からこぼれたのは、ひとつだけ。


「怒って、ないの……?」


——言いつけを破って外に出たこと。
——勝手に誰かと話したこと。
——叫んで、あんなにも取り乱したこと。


「怒ってないよ。だって、あんな熱烈な告白されたら……怒れるわけないじゃん」


そう言いながらレオは、私の手を両手で包み込み、指先をひとつひとつ確かめるように撫でた。


「……ねぇ、ヨリ。あれ、本心なんだよな?」


私が小さく頷くと、レオの表情がぱぁっと花開いたように明るくなる。


「そっか……そっか!マジか!ほんとに!?やば……やば、俺……!」


喜びが爆発したように、レオは私の手をぎゅっと抱きしめて、目尻を下げて笑い出した。まるで子どものように、でもその目は獲物を逃すまいとする獣のような光を宿している。


「俺、めっちゃ愛されてんじゃん……なにこれ、しあわせすぎて死にそう……!」


立ち上がってはしゃぐでもなく、彼はその場で私の手を握ったまま、何度も頷いて、何度も「幸せ」「好き」「嬉しい」と呟いた。


「俺だけのヨリが、俺を選んだ。俺のために、あんなに叫んでくれた……!やば、ほんとやばい、なにこれ……」


頬を押さえて、身震いするように笑うレオ。
その熱は、私の手にさえ伝わってくるほど強かった。