ドアスコープ越しに映ったのは、見覚えのある顔。
——佐久間くんだった。

「……どうしよう」

玄関の前で固まったまま、声にならない声が漏れた。

仕事を辞めたとき、佐久間くんとはシフトが被っていなかった。だから、あの日――レオが迎えに来た日が最後だった。そのあと私はレオに言われたとおりにカフェの仕事を辞めた。

彼が来た理由なんて、わかってる。

突然の退職。あの日の異常な空気。それを気にして、心配して来てくれたのだろう。

でも――レオには、「誰にも会わないで」って言われている。
出るな。誰にも見せるな。レオの言葉は命令みたいで、私の中に重く沈んでいる。

だから私は、どうすればいいのかわからなかった。

 
ピンポーン、ともう一度インターホンが鳴る。

そのすぐあと、小さな声が聞こえた。