クズ彼氏の甘く危険な呪縛


今日はいつもより冷える……と思う。冬の気配が近づいてきていた。

仕事帰りの道を、何も考えずに歩いていた。
いつも通りの時間。いつも通りの家。

なのに――家の前で、私は立ち止った。

ドアの前に、誰かが座り込んでいた。


「……な、んで」


見間違えるわけなかった。
細くなった背中。汚れたパーカー。明るい髪はすっかりくすんで。
膝を抱え、頭をうなだれて、まるで力の抜けた人形みたいに、うずくまっていた。


「……レオ……?」


消え入りそうな声だった。なのに、ぴくりと肩が動いた。

ゆっくりと顔が上がる。
こけた頬。荒れた唇。目の下のクマ。
冬の空気に晒されて、肌は赤く、指はかじかんでいた。

だけどその目が私を捉えた瞬間――とろけるように細められた。


「……ヨリ、会いたかった……」


まるで、信じられない奇跡を前にしたような声。
微かに震えて、それでも、嬉しそうで、縋るようで。