愛されていると思っていた。
どれだけほかの人に触れていても、「愛してる」と言うのは私だけ。
そう信じていた。信じたかった。
それが、私の命綱だった。

ドアを開けた瞬間、私の知らない香りと知っている低い声が混ざった。

私の部屋。私と彼の小さな帰る場所。

そこでの逢瀬はもう慣れていた。最初はバレないようにされていた浮気も、いつしか堂々と、私の部屋を舞台にするようになっていた。

最初は嫌悪感が湧いたものの、慣れというのは怖いもので、今ではあとで掃除すれば、洗濯すればいいか、で済んでしまう。

だから今日もそっと気配を消して、音をたてないように、静かに荷物だけ置いて、外に出るつもりだった。

なのに今日に限って、覗いてしまった。
ただの興味本位だった。

そこにいたのは、いかにも’’事後’’の余韻を纏ったふたりだった。
セットのスウェットを上下別々に着て、彼ーーレオが女の子の肩を抱いている。女の子はふわふわとした髪の毛を指先で遊びながら、細い足をレオの足と絡ませて、クスクスと笑っていた。

ああ、やっぱり彼の隣には、ああいう子が似合っている。派手で可愛くて、綺麗で、みんなから愛されている、そんな子。

もう痛む胸の傷なんてないのに、ずきりと古傷が痛んだ。自分がいかに不釣合いなのか目の当たりにしているから。

彼の顔が女の子に近づいて、触れて、離れて……また重なった。

これ以上は見てはいけない……そう思って扉を閉めようとした瞬間


「愛してるよ」


聞いてしまった。聞こえてしまった。

私の、私だけの唯一の宝物のような言葉が。

呼吸が苦しい。頭が痛む。目がチカチカする。

どうして……?「愛してる」は私だけじゃなかったの?
足場が崩れていく感覚に力が抜けていく。座り込んでしまったときの物音に、彼は訝しげにこちらへ向かってきた。

そして私の姿を確認すると意地悪げに笑って、なんてことのないように


「おかえり」


私が壊れる音がした。