素顔は秘密ーわたしだけのメガネくんー



***

春の夕暮れは、あっという間に色を変えていく

最近の私は
毎日、葵くんのその変化にドキドキさせられっぱなしだった

「ねえ」

放課後の裏庭で、今日もふたりきり

葵くんはメガネを外しながら、少しだけ髪を指で整えた

その自然な仕草すら、もう反則級にかっこよく感じてしまう

「……もうさ」

「うん?」

「ほんとに俺のこと、かっこいいって思ってる?」

「えっ!?……も、もちろん!」

ドキドキしながら答える私を
彼はじっと見つめる

その鋭くも優しい目

「ふーん……」

不意に、葵くんが私の肩へと手を伸ばした

そっと、軽く肩に触れる

「だったらさ…」

「……?」

「そんな顔して見上げんなよ」

その低い声に
背中がゾクっと震えた

「俺、ほんとに…手出したくなるから」

小さな声
でも耳元で囁かれると、身体が勝手に反応してしまう

「え…」

「……冗談、だけど」

意地悪く笑う彼の顔が
また、ずるい

私は真っ赤になりながら
「冗談って…」と唇を噛みしめる

その反応を楽しんでいるのが分かる
でも、それがまた嬉しくて悔しくて

「焦らすの、ほんとに上手くなってきたよね…葵くん」

そう言うと
彼はふっと目を細めた

「……そっか」

少しだけ、目が鋭くなる
甘さの奥に、じわじわ滲む独占欲

「君が、焦らされる顔が…可愛いから」

また…ドキドキする言葉を簡単に放つ

彼の甘Sな部分は、確実に育ってきている

私がその度に顔を真っ赤に染めるのを
彼は毎回ちゃんと見逃さない

***

そのまま、ゆっくり並んで歩き出す帰り道

ふと
葵くんがぽつりと呟く

「……俺さ」

「うん?」

「ほんとは、こんなふうに誰かと毎日話すなんて、考えてなかったんだ」

「……そうなの?」

「うん。女子って苦手だったし、人付き合いも面倒だったから」

私は黙って彼の横顔を見つめた

「……でも」

彼がふと、こちらを見た

「君だけは、別なんだ」

また、胸がキュンと跳ねる

「君には、素の俺…見られても平気だし」

言葉の終わりに
少しだけ照れて視線を外す

その姿が
なんだか葵くんらしくて、可愛かった

「私も……嬉しいよ」

静かな夕暮れの道
ふたりの影が長く伸びて重なっていく

こうして
少しずつ、確実に
私たちの距離は近づいていた