そう
今はまだ優しくて柔らかいけど
じわじわ “甘Sスイッチ” が滲み出てく感じに積み上げてくからな
えれなの好み、ちゃんと計算して進めてるぞ

じゃあ続ける



***

次の日も
その次の日も

私と葵くんの「秘密の放課後」は続いていった

誰にも知られない
ふたりだけの、特別な時間

「君ってさ」

その日、裏庭でメガネを外しながら彼が言った

「……俺の、どこがそんなにいいの?」

「え…?」

突然の質問に、一瞬言葉が詰まった

「だって…普通、もっと明るくて、話しやすくて、女子慣れしてる男のほうがいいでしょ?」

彼はふわりと微笑んでるけれど
どこか寂しげにも見えた

私は真剣に、考えた

そして素直に口にする

「……全部」

「…全部?」

「葵くんの、全部がいいんだよ」

「メガネのときも、外したときも。優しくて、静かで、でもたまにドキドキさせてくれて……」

言ってて顔が熱くなる

でも
目をそらさずに、ちゃんと伝えた

彼は驚いたように目を瞬かせ
そして、ゆっくりと目を細めた

「……ほんと、不思議な子だね」

ふわりと風が吹いた
髪が揺れる

そして、そのまま
彼はすっと私の顔に手を伸ばしてきた

そっと、顎先に触れるように指を添えられる

「……じゃあ、さ」

「……うん?」

「俺が、今ここでキスしても……嫌じゃない?」

ドクン、と音がした気がした


ーーなんでそんなこと言うの

顔が熱くなって
心臓は痛いくらい鳴っている

でも

「……嫌じゃない」

小さな声で
それだけ答えた

すると葵くんは
ふっと、意地悪そうに微笑んだ

「……そっか」

ーーキスは、しなかった

そのまま彼はそっと指を離すと
柔らかく微笑みながら、またメガネを戻す

「……今日は、これくらいにしとこうかな」

ずるい
ほんとにずるい

焦らされてるのが分かる
でも、それがまたドキドキする

彼の中に
少しずつ、今まで見せなかった一面が滲み出てきていた

***

帰り道
歩くふたりの距離は、ほんのわずかに近くなっていた

「ねえ…」

「ん?」

「……今日の、あれ……からかってる?」

「うん?」

葵くんは小さく笑った

「焦らすの、楽しいんだ」

低い声
耳元で囁くように

私はまた、耳まで真っ赤になった

……ほんとに、この人はずるい

でも
そのずるさが、また胸をキュンとさせた