翌日
一日中、私はソワソワしていた

「放課後、ちょっと付き合ってくれる?」

その葵くんの言葉が、何度も何度も頭の中でリフレインしている

秘密の放課後
秘密の彼の素顔

……また、あの素顔が見れるのかな?

授業の内容なんて、ほとんど耳に入ってこなかった

放課後のチャイムが鳴ると
私の心臓は、とうとうバクバクと騒ぎ始めた

「…行こうか」

声をかけてきたのは、もちろん葵くんだった

教室を出る
昇降口を抜け
人気の少ない裏庭の方へ

いつもなら通らないような静かな場所

「……ここ?」

「うん。大丈夫、誰も来ないから」

夕日が低く、校舎の影を伸ばしていた
静かな空気が流れる中
ふたりきりの時間が始まる

「ここなら、気兼ねなくいられるんだ」

「……気兼ね?」

葵くんはふっと微笑むと
ゆっくりと、またメガネを外し始めた

その瞬間、空気が変わる

ゆるやかに落ちてくる前髪
無造作に整えられた黒髪
そして、あの透き通るような鋭い眼差し

「…」

心臓が、ひゅっと音を立てるように跳ねた

ドキドキが止まらない

何度見ても、やっぱり別人のように綺麗で
綺麗すぎて、呼吸を忘れてしまいそうになる

「……やっぱり、君って」

思わず漏れた声が、葵くんの耳に届いた

「……?」

「ずるいくらい、かっこいいよ」

言ってしまった
口に出した途端、顔が熱くなっていく

でも

葵くんはほんの少し目を細めて
静かに近づいてきた

距離が
ゆっくりと縮まっていく

「……ほんとに、変わってるね」

低く、掠れたような声で呟く

「え…?」

彼の右手が、そっと私の髪に触れた

「普通は……こんなの見たら、引くだろ?」

「引かないよ…」

「……なんで?」

「だって……かっこいいと思うもん」

ドクン、とまた心臓が跳ねる音が聞こえた気がした

「君は、僕の素顔を知っても平気で隣にいてくれるんだね」

「うん……だめ?」

「だめなわけ、ない」

その瞬間
ふわりと指先が、私の頬に触れた

「……君にだけは、知っててほしい」

目が合う

鋭くて
でも優しくて
どこか寂しげで

私は息を呑んだ

ドキドキが
痛いくらい胸を打ち続ける

その時

「……だから、これはまだ秘密ね」

葵くんはそっとメガネを戻し
いつもの「僕」に戻った

けれど、今度は私の心の中に
確かに芽生えていた

ーーこの人の隣に、もっといたい

もっと、この秘密を共有したい

もっと…知りたい