翌日の昼休み
廊下の端で偶然すれ違った七海と湊
「あ、七海ちゃん」
「……あ、湊くん」
湊は自然に微笑みながら七海に声をかけた
「昨日はありがとうね、色々話してくれて」
「い、いえ…別に…」
七海は軽く笑いながら
少し距離を取ろうとした
だけど湊は一歩踏み出して続けた
「ほんと、思ったより話しやすいし優しいよね七海ちゃんって」
「え、そ、そんな…」
「転校してきてすぐだったけど、七海ちゃんが隣で助かってる」
さらっと自然体で距離を詰めてくる湊
七海は内心ドキドキしながら
(……これ以上はまずい…)と焦り始めていた
その瞬間
「ーー七海」
後ろから低く静かな声が響いた
七海も湊も同時に振り返る
そこには、すぐ後ろに立っていた葵がいた
メガネはしている
でも
その目の奥は完全に”俺”だった
「……あ、葵くん」
「ちょっと話してたんだ」
湊が悪気なく笑いながら答えると
葵は一瞬だけニヤッと口角を上げた
「……そっか」
一歩だけ前に出る
七海の手首を静かに自分の方へ引き寄せる
「けどさ」
一呼吸置いて
葵の声色が少し低く落ちた
「七海は俺のだから」
ズシンと響く低音
一瞬
その場の空気がピンと張り詰めた
湊は驚いた表情を浮かべる
「……あ、そう…だったんだ」
葵は湊の反応を見ながら
ゆっくりさらに追い打ちをかけた
「だから、これからも”話すな”とは言わねぇけど――」
ほんの少し目を細めて
「…俺の女に変な期待だけはすんなよ」
低く甘く、完全に独占を宣言したその瞬間
七海はもう
心臓がバクバク鳴りすぎて苦しくなるほどだった
湊は少し苦笑しながらも
一歩だけ距離を取って
「……了解。ごめん、七海ちゃん」
「い、いや…大丈夫…」
葵は湊が離れたのを確認すると
七海の手を引いたまま廊下の隅に連れ出した
「……葵くん、さっきの…」
「ん?」
「……すごかった…」
七海が顔を真っ赤にしながら小声で呟くと
葵は少しだけ笑って
「んだそれ?」
そのまま七海の腰をぐっと引き寄せて、耳元で囁いた
「お前は、俺だけ見てりゃいいから」
甘く低い声に
七海はまた溺れていくしかなかった



