それから数週間後
周囲もだいぶふたりの関係に慣れ始めていた

だけど
葵は慣れるどころか
むしろ甘さも独占欲も、どんどん加速していった

「なあ七海」

「……ん?」

放課後、廊下の隅
人気のない階段下に呼び出された七海は
すでに少しだけ察していた

「今日、朝から俺にあんま構ってくんなかったな」

「え、そ、そんなこと……」

「男子とも話してただろ?」

「だって…班が一緒で…!」

葵はふっと低く笑った

「……まあ、分かってるけどな」

ゆっくりと七海に近づいてくる

「でも、お前が誰と話してようが、俺のだって分かってても……」

甘く低い声が耳元に落ちる

「……やっぱ、ムカつくんだわ」

七海の心臓がバクバク鳴り始める

「そ、そんなつもりじゃ…!」

言い訳を遮るように
葵の手が七海の腰に回り込む

「知ってるよ」

そしてゆっくり
七海を壁に押し当てた

「……だからさ」

甘くて鋭い瞳で見下ろされる

「今からは、俺だけ見てろ」

ドクン

そのまま葵はゆっくり顔を近づけて――

「……ん」

静かなキスを落とした

七海は、目を閉じながら
全身でその甘さに包まれていく

キスが終わると
葵は額をそっと重ねながら囁いた

「ほんと、お前可愛すぎんだよな」

七海の心臓はもう限界だった

「…もう…葵くん、ちょっと暴走気味…」

息を整えながら小声で呟くと

「暴走?……して悪い?」

ニヤリと笑う葵

「俺のだから、遠慮する必要ねぇだろ」

その低い声が
また七海をドキドキさせた

***

その後――

帰り道も当然、暴走は続く

「なあ七海、腕出せよ」

「え…?」

「手、繋ぐ」

軽く手を引かれ
そのまま当たり前のように指を絡められる

通学路で手を繋ぐカップルなんて珍しくないけど
葵とこうして歩くのは
毎回違ったドキドキがあった

(……でも)

(なんか、葵くんの独占欲が…前より全開になってきた…)

ふたりで歩いてると
時々すれ違う同級生たちが驚いた顔をして振り返ってくる

「え、手繋いでるの珍しくない?」
「ていうかあの葵くんが…!?」
「やば…甘すぎ…」

その声すら気にせず
葵は平然と歩き続ける

「なあ七海」

「うん…?」

「こうやって歩いてるの、周りに見せんのも悪くねぇな」

耳元で甘く囁かれたその瞬間
七海の顔はまた真っ赤に染まっていった

(ほんとにもう、完全に止まらない…)

だけど
その止まらない甘さが
七海にとって何より幸せだった