次の日の放課後

その日は夕暮れの光がとくに柔らかく
裏庭のベンチを静かに照らしていた

葵くんは、いつもより少しだけ早くそこに座って待っていた

「…今日も来てくれた」

「もちろん」

私は自然と隣に腰を下ろす

まるで、もうここがふたりの”秘密の場所”になっているみたいだった

彼はゆっくりとメガネを外して
私の前で素顔に戻る

何度見ても
やっぱり胸が苦しくなるほど綺麗で

「今日の君、またちょっとだけ雰囲気違う?」

「え?」

「朝から少し落ち着かなそうだった」

ドキリとする
見抜かれていた

「……だって、昨日…その、帰り道のあの言葉……ずっと考えちゃってたから」

彼は静かに目を細めた

「そう?」

「……あんなこと、突然言われたら、考えちゃうよ」

彼は微かに口元を上げて
じっと私を見つめてくる

「……そんなに意識してくれてたなんて」

「い、意識なんて……!」

反射的に顔を隠す私を
彼の指先がそっと引き戻してくる

「隠すなよ」

低く、優しく
でも逃がさない手つきで

ドクドクと、心臓の音が響く

「可愛い顔、ちゃんと見せて」

そのまま、また顔が近づいてくる

……今日は、距離が、近い

唇が、触れそうで触れない位置に留まる

息をするのも忘れてしまいそうだった

「…そんな顔されると、ほんとにキスしたくなるだろ」

低い囁きが耳元で震えた

「……」

目を閉じてしまいそうになる
でもその瞬間

彼は少しだけ距離を戻した

「……まだ早い、かな」

焦らされた

けれど
その焦らしすら
身体が熱くなるほど甘く感じてしまう

「……ひどいよ」

「ひどくない。ちゃんと我慢してる」

彼は静かに笑った

「でも……そろそろ、本当に我慢できなくなりそうだけど」

ドクンッ…
また胸が跳ねる

少しずつ
彼の中に眠っていた”本性”が
表に出はじめているのを感じていた