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夕食が終わって、恒例の星空観察が始まった

「すごい……」

空を見上げると、一面に星が広がっていた

「こっち」

樹先輩が手を引くように、人の少ない砂浜へ移動する

「ここからの方がもっと綺麗なんだ」

「……ほんとだ…」

静かな波の音に、心臓の音まで響きそうになる

しばらく黙って星を眺めていたけど

ふと、樹先輩が口を開いた

「昔さ…」

「……はい」

「俺も実は、ずっと好きだった小説があって」

突然の自分語りに少し驚く

「ネットで読んでたんだ。タイトルが――『二人の放課後、約束の先で』ってやつ」

ドクン、と心臓が跳ねた

(……え?)

「高校生同士の恋愛でさ。
主人公の名前が、奏と理央だったかな」

また心臓が跳ねる

それ、わたしが高校のときに書いて
投稿してた小説のタイトルとキャラ名だった

「すごく丁寧に描かれてたんだ。
主人公の気持ちが苦しくて切なくて…でも最後はちゃんと幸せになってほしくなる物語でさ」

樹先輩は少し目を細めて微笑む

「表現はまだ拙い部分もあったけど
気持ちを想像して描ける人ってすごいなって思ったんだよね」

胸の奥がぐるぐるしてた

「だからずっと――
この作品書いた人は、優しくて真っ直ぐな子なんだろうなって」

その言葉が
やけに胸に響いて苦しくなる

「すごく印象に残っててさ……ごめんね、自分の話ばっかりして」

「い、いえ……」

わたしは咄嗟に俯いた

だって__

それ、まさに
わたしの書いた小説だったから

でも言えなかった

驚きと嬉しさと
信じられない気持ちと
恥ずかしさと

全部が胸の奥でぐちゃぐちゃに渦巻いていた

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