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静かな並木道――
ふたりの前に立ちながら
わたしは大きく息を吸った
胸がギュッとなって、すぐに言葉が出せなかった
「……わたし…」
響も先輩も、静かにわたしを見つめてくれていた
「ずっと、すごく悩んでて…」
声が少し震える
「先輩は…ほんとに優しくて
いつも私のことを気遣ってくれて、守ってくれて
一緒にいるとたくさんドキドキして
なにより安心できる自分がいて…」
先輩は微笑んだまま、わたしの言葉を受け止めてくれる
その言葉を聞いた瞬間、響の手がわずかにピクリと動いた
表情は変えずに前を向いていたけど
ポケットの中の手には自然と力が入っていた
わずかに拳を握りしめるその動きに
本人も気付かないほど静かな息が漏れていた
「でも――」
喉が詰まりそうになりながらも続ける
「響くんといるときの私は…なんだか自然で…
素のままでいられた」
ドクン――
「どんな私でも、そのまま受け止めてくれて…
強がらなくてもよくて…」
また涙が滲んでくる
「……そんなふうに思わせてくれたのは、響くんだけだったの」
響が息を止めたようにわたしを見つめていた
「わたし…」
「わたし……響くんが、好きです…」
声にした瞬間、涙がこぼれ落ちた
響が静かに目を閉じて、小さく息を吐いたあと
ゆっくり顔を上げた
隣で見つめていた先輩も微笑んでいた
「……そっか」
先輩は一歩後ろに下がって、小さく息をついた
「きっと、もっと早く…
もう少し積極的にアピールしとけばよかったかな」
そう言って、小さく笑った先輩の顔は
少しだけ寂しそうだった
「……でも、大丈夫だよ
気持ち聞かせてくれてありがとうね?紬ちゃん」
優しく続ける先輩の声が、まっすぐ胸に響く
「紬ちゃんが幸せだって思えるなら、それが全部だから」
「先輩…」
わたしは涙のまま、何度も頭を下げた
「ほんとに…ありがとうございます」
先輩は最後まで優しく微笑んだまま、静かに背を向けて歩き出した
響も黙ってその背中を見送っていた
そして――
「……お前、泣きすぎ」
響がゆっくり近づいてきた
「……う、うるさい…」
涙が止まらないまま、顔が熱くなる
「……俺さ」
響が少し声を震わせたまま続けた
「こんなに人のことで必死になったの…初めてだった」
「……私も」
ゆっくりと響の腕の中に引き寄せられて、そっと抱きしめられる
「これから先もたぶん…意地悪はするけど」
「うん…それでも、隣にいる…」
わたしはその胸の中で静かに泣きながら微笑んだ__
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