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昼休み、構内の廊下――

学生たちが一斉に教室移動する時間帯で、廊下は少し混み合っていた

わたしは資料を抱えながら、前を見て歩いていたつもりだったけど

「わっ…!」

ふいに前からぶつかってきた人に肩を押されるように当たってしまった

バランスを崩して足元がふらつく

その瞬間――

「危ねっ!」

グッと強く腕を引かれ、背中ごと引き寄せられた

「――響くん…」

振り向いた先にいたのは響だった

息が少しだけ乱れている

「ったく…お前…」

響の腕の中で支えられたまま、顔が熱くなる

「な、なんでここに…?」

「偶然だつーの」

「そうなんだ……、大丈夫だよ…」

「嘘つけ」

低く静かな声だった

「大丈夫って顔じゃねえな」

わたしの頬に少しだけ冷たい空気が当たる

「……私、平気…」

「はあ…ほんと放っとけねえな」

わたしの腕を軽く握ったまま、ゆっくり壁際に誘導していく響

「少し休め」

支えられた腕があたたかくて、胸がドクドクと跳ねた

「お前さ――」

ふっと響が目線を合わせてきた

「いつも強がってんだよ」

「……そんなこと…」

「俺の前くらいさ、無理すんなよ」

ドクン――

響の手がわたしの肩にそっと添えられる

「お前がこうやって頑張りすぎんの…嫌なんだよ」

胸の奥がギュッと締めつけられた

その時だった

「紬ちゃん!」

駆け寄ってきたのは樹先輩だった

「大丈夫!? 怪我はない?」

優しく肩に手を置いて、心配そうに覗き込んでくる

「……うん、大丈夫…」

「本当に?倒れたらどうしようかと思ったよ」

「ほんとに平気です…先輩…ありがとう…」

樹先輩は安堵したように微笑んでくれる

その横で響は黙ったままわたしを見つめていた

「響、助けてくれてありがとうね」

樹先輩がふっと微笑む

「……別に」

響はぼそっと呟いて目線を外した

わたしは
響のその横顔を見つめながら――

(……なんで、こんなに…苦しいの…)

優しい先輩と
不器用で意地悪で、でも守ってくれる響

(私…どうすれば…)

その答えはまだ
喉の奥で引っかかったままだった__

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