双つの恋、選んだのは君だった


休日の午後――

待ち合わせ場所の駅前に着くと
すぐに樹先輩が手を振ってくれた

「紬ちゃん」

「先輩…お待たせしました…!」

今日の私服姿の先輩は
いつもより少しだけラフで柔らかくて
胸が自然とドキドキしてしまう

「今日はゆっくり楽しもうね」

優しく微笑まれて
また心臓が跳ねた

歩きながら小さな雑貨屋に入ったり
可愛いカフェで一緒にスイーツを食べたり

「紬ちゃん、これ似合いそうだな」

お店のショーケースを見ながら
先輩が小さなヘアアクセを指差す

「え、そんな…!」

「いや、ほんとに。
こういうの紬ちゃんに似合いそうだなって思っただけ」

ふわっと微笑まれるたびに
胸がまたきゅっとなる

(……先輩、優しすぎる…)

カフェに入ると
静かなソファ席に案内された

ゆったり流れる音楽と
先輩の隣という距離にまたドキドキしてしまう

「紬ちゃんって、普段はどんなとこでかけるの?」

「えっと…本屋さん立ち寄るの好き…かもです」

「やっぱりね」

ふっと優しく笑う先輩の横顔に、また胸が高鳴った

「……なんで分かったんですか?」

「んー本読んでる時の紬ちゃん、目がキラキラしてるから」

(また…)

前にも言われたその言葉が
優しく胸に染みていく

「紬ちゃんのそういうところ…俺、すごく好きなんだ」

ドクン――

耳が一気に熱くなる

「……す、好き…?」

先輩は少し照れたように微笑んだまま続けた

「いや、もちろん”人として”って意味で…今はね」

(今は…?)

その言葉の”含み”に
胸がざわっとする

帰り道も自然に隣を歩きながら駅に向かった

夕焼けの光が二人の影を長く伸ばしていて

それをなんとなく並んで眺める

「紬ちゃんと今日こうして過ごせて…やっぱり誘って良かった」

「……わたしも…嬉しかったです…!」

先輩の優しさが胸に染みるたびに
言葉にならない想いが静かに積み重なっていった

そんな穏やかな空気のまま駅に着いたとき――

「――兄貴」

低い声が響いて、わたしはハッと振り向いた

柱にもたれるようにして響がこちらを見ていた

「響…?」

「偶然通りかかっただけ」

わざとらしく肩をすくめる響の目線が
一瞬わたしをじっと見つめていた

(……また意地悪…)

でもその瞳の奥が少しだけ
寂しそうにも揺れていた__

――――