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──その日は、いつもと何かが違った
空気が重い
世界が、ほんの少しだけ歪んでる気がする
「奏…?」
「……」
いつもならすぐに返してくれる声が
ほんの少し、遅れた
「えな」
ようやく返ってきたその声は、微かにかすれていた
私はすぐに奏に駆け寄って、手を伸ばす
その瞬間──
触れた指先が、一瞬だけ”透けた”
「……っ!」
「奏…?!」
心臓が跳ね上がる
「なんで…?
どうして…?!」
「……ごめん」
奏は苦しそうに微笑んだ
「限界が…近づいてきてるのかもしれない」
「うそ…だって今まで…!」
涙が滲んで、言葉が詰まる
「俺は、えなの願いでここに存在してきた
でも、その想いが強くなりすぎて──
世界の“枠”が、もう支えきれなくなってきてる」
「そんなの…そんなの聞いてない…!」
私は必死で首を振った
「ねぇ、だって…私、まだ何も諦めてない
奏がいなくなるなんて、考えたくない…!」
「……わかってる」
奏はそっと私を抱き寄せた
「俺も、消えたくなんかない」
「だったら…!
じゃあどうしたらいいの?!
ねぇ…お願いだから…!」
「えな──」
奏の腕の中で、私はただ泣きじゃくった
「なぁ」
低く優しく囁く声が耳元に落ちる
「これまで、たくさん願ってくれてありがとう」
「……っ」
「ここまで来れたのは、えながいたからだよ」
「いやだ…お別れみたいなこと言わないでよ…!」
奏の身体が、少しずつ淡く滲み始めていた
私は必死でその身体を強く抱きしめた
「やだ…お願い…消えないで…!」
「えな」
奏は私の手をそっと包み込む
「まだ終わってない
まだ“奇跡”は続いてる」
「──え…?」
「ギリギリまで俺は、君のそばにいる
だから──
最後まで俺を想って」
涙で滲んで見えなくなりそうな奏の笑顔が
苦しくて、愛しくて、どうしようもなかった
私はただ、嗚咽混じりに叫んだ
「……離さない!
絶対離さないから…!!!」
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