課題を一つ一つ解決していき、開業準備は遅滞なく進んでいった。
 そんな中、ある想いが膨らんで、心の中に留めておくのが難しくなっていた。
 美容室の全国展開という夢だ。
 まだ1軒目を開業していないので時期尚早と言われても仕方がないが、QOL薬品からロイヤルティが入ってきた今、計画だけでも具体化したくてうずうずしていた。
 一般的に美容室の開業資金は、従業員を雇う場合、1,500万円くらいといわれている。ということは、1億円あれば6店舗くらいは開業できるのだ。もちろん、夢丘が1人でできるわけはないので、そのための人材確保が必要だが、今回採用した10人の美容師の中から店長に向いている人を選別していけば、その人たちのモチベーションになるだろうし、高いレベルを維持できることになる。
 つまり、今回開業する美容室を育成機関として、順次人材を送り出す仕組みを創り上げていけばいいのだ。

 1年で6店舗なら10年で60店舗か……、

 ロイヤルティが毎年入ってくる確証などないのに、捕らぬ狸の皮算用が止まらなくなった。

 更にもう一つ夢があった。
 東京だけでなく、秋田に店舗を持つことだった。

 夢丘が生まれた秋田、
 優秀な美容師の祖母の元で育った秋田、
 美容意識の高い秋田、
 でも、人口減少に直面している秋田、
 なにより、夢丘が恩返しをしたがっている秋田、
 そして、いつか彼女の両親に挨拶に行く秋田、

 わたしにとっても秋田は特別な場所なのだ。
 
 それでも、今は、それを口にする時ではないのも事実だった。

 二()追う者は一兎も得ず。

 自らに強く言い聞かせて、全国展開という夢を封印した。