社長と副社長から同意を得た神山は西園寺建設の日本美研究所を訪れた。
天空のライヴレストラン極上の打ち合わせのためだ。
事前に用件を伝えていたので、席に着くなり西園寺はテーブルに使う木材について提案を口にした。
「これがいいと思います」
指差したのは目の前のテーブルだった。
無垢材だという。
一枚板の天然木で、樹齢を重ねた古木は使い込むほどに独特の風合いが出るという。
「年を経るごとに魅力が増していくのです」
「なるほどね。使えば使うほど日本美に満ちた極上のテーブルになっていくわけだね」
「はい。その通りです」
自信に満ちた口調に神山は頷いた。
多少値が張るかもしれないが、日本美を追求するための投資を惜しむつもりはなかった。
「それでいこう」
即決すると、そのテーブルに合う椅子のデザインを日本美研究所の専属デザイナーに依頼することも決めた。
次に、テーブルや椅子に調和するステージや床、壁などの内装に使う木材の検討に入った。
話し合いの結果、コンサートホールや音響スタジオ建設で豊富な経験を持つ設計事務所に依頼することにした。
「あとは音響機器ですね」
「うん、そうだね」
これは既に準備ができていた。
ウッドコーン・スピーカーだ。
音の伝わりが速いことに加えて、余分な振動を適度に吸収する理想的な振動板である〈カバの木〉を使った独特な製品で、天空のライヴレストランに打ってつけのスピーカーだと神山は確信していた。
だからパンフレットを広げて、「いいだろ。コンサートホール用の特注スピーカーが開発されて来月から予約受注が始まるんだけど、もう発注することを決めていて、既に相手に伝えてあるんだ。うち以外にはまだ引き合いがないようだから、うまくいけばライヴ会場に設置される世界初のウッドコーン・スピーカーになるかもしれない」と胸を張った。
すると、「世界のどこにもない、オンリーワンのライヴレストランになりますね」と西園寺が目を輝かせた。
「ああ、独創性と革新性を追い求めてきたからね」
神山は成功への確信を深めて頷いた。



